BLUEMAP FANTASY



第一章 〜囚われの少女〜



第三幕『盗賊団』






 果てしなく広がる空と海のあを。
 そのどちらとも一線を画すように宙船は浮かび、一直線に前を目指す。
 凪いだ風の中、肩にかかる金髪を後ろに束ねただけの少年がいた。
 どこか冷めたような蒼の目をした、黒服の少年は船の甲板に佇む。
 端整な顔立ちからは中性的な印象が伺える。
 いつも手袋をはめており、いかにも神経質そうである少年は、丸眼鏡から湾曲した世界を見ていた。
 突如、背後から女の声。
「は〜い、ジャック。お・は・よ!」
 陽気にやってきたのは、髪を高く結んだ女。紫色の花で染めたように色鮮やかな髪が、その尾を引く。
 女は少年の背中に手を触れようとした。
「ひっ」
――刹那、女は思わず悲鳴をあげる。
 少年は氷のような恐ろしく冷ややかな目で女を睨んでいた。
 言葉を発するでもなく、その目は告げる。
『触るな』
 心底冷や冷やした苦笑いを浮かべ、女は後ずさりした。
「わっ、悪かったってば! そんな、汚いものを見るみたいにっ……こっち見ないでよっ!」

 そうしていると、その後ろからさらにもう一人。
「何なに〜? 何の騒ぎ?」
 その人物は、またもや意気揚々とやってきた。
「なんだか楽しそうじゃな〜い? アタシも混ぜて〜?」
「団長!? 聞いてよ〜!」
 女はその人物に泣きついた。
「ジャックの奴ったら、またあたしのこと汚いもの扱いするのっ!」
「そう嘆かないの、ミカエラ」
 その人物は、よしよし、と女のおでこを撫でた。
「ジャック、彼女に悪気はないのよ。許してあげてね?」
 金髪の少年――ジャックは一旦視線を下に逸らし、納得のいかないような顔だ。
 しかし、それからすぐに『仕方ない』とでもいった風に眉を上げる。
 そして視線を戻すと、いつもの冷淡な様子で、ようやく言葉を発した。
「僕は女が嫌いなんだ。触られるなんて、特にね。」
 それは二人のどちらかに言うわけでもなく。
 ジャックはその一言を言い放ったきり、その場から去った。
 その行動は、大体決まっている。自室へと戻り、小説でも読むのだろう。

 バタン――ドアの閉まる音がし、その場の空気の静けさをより強調する。
「大丈夫よ、ミカエラ」
 ミカエラと呼ばれた女は肩をすくめ、小さく“お手上げ”のポーズをしてから微笑んだ。
「ま、あたしだけにじゃないなら許してあげる、かもね」
 ジャックの態度を全く気にしていないかのように、悪戯なウィンクをする。
「……でも、潔癖症なのに海賊なんてよくやってるわ。そう思わない? ね、だんちょ?」
 何の問題も心配も無いかのごとく、その人は微笑んでいた。
「天は人を最初から、完璧なものにはしないんだよ。そんなものの集合体だから、人は人を好きになるし、人生はきっと楽しくなるのさ。大丈夫だよ」
 その人は、隣人の肩を優しく抱き寄せた。

 団長と呼ばれたその人こそ、かの偉人である海賊の孫、盗賊団の長である。
――その名は、『ライラ・リック・リリー』。
 名前は女性のようだが、肩にかけられた布の下はたくましい体つきをしている。
 盗賊ならば名前を偽っていようが性別を偽っていようが、よくあることである。
 果たしてその名が本当の名であるかどうかは、本人のみが知る所。
 そして――その盗賊団の名は、飛空盗賊団『マスカレード』という。
 彼らは、世を騒がせることとなる――とある事を計画していた。


「明日の事なんだけど――」
 宙船の中心部、その船長室は時に会議室として使われる。
 一味の者は円卓を囲み、何やら集まっていた。
 盗賊団長『ライラ』は、その部屋の一番奥、長い背もたれのある椅子に腰かけている。
 がっしりとした丸テーブルいっぱいに、筒状に丸まっていた地図は広げられた。
 そこで団長は、ある計画を口にした。
「狙いは、『花の都・オレリア王国』の財宝だ。まずは、王女レナ姫を誘拐する! ――」




                              −第四幕へ−





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